庭園文化史と知識の社会史の記録

庭園文化史と知識の社会史に関しての考察を綴ります。

予習

 私が高校生の頃,ある国語の先生がこう言った。

 「最近忙しくて予習が追い付かないのよ」

 その頃の私にとって,それは信じられない言葉だった。「多めに予習をしなさい」と生徒たち言っておいて,自分はろくに予習ができていないじゃないか,と。

 

 あれから10年以上経って,その国語の先生の気持ちがよくわかるようになった。授業の予習,とくに教師にとっての予習は簡単ではない。やればやるほど,気になる箇所が出てくる。正直言ってきりがない。調べるだけならまだしも,それをどう授業に組み込むか,生徒にどう伝えるか。ここまで考えると予習にかける時間は必然と長くならざるを得ない。しかも,授業は1コマだけではなく,何コマもある。他の業務もある。予習が追いつかないという嘆きは出て当然なのである。

 

 あの頃の自分はそのようなことを知る由もなかった。学習塾の講師を経験してはじめてその先生の苦労がわかった。私は思う,その嘆きを終生忘れないでおこう,と。嘆きは苦悩から生まれる。その苦悩は,真摯に取り組んでいる証拠だからである。その先生にとっては一瞬の出来事ではあっただろうが,私の胸に今も印象に残っているし,これからも,あの「嘆き」が自分を支えるのだろうと思っている。